鼻形成術について解説します。
鼻の手術は何故難しいか
鼻の手術を計画するにあたっては鼻根〜鼻背,鼻尖,鼻翼のバランスを意識することが重要です。更に目や額,頤など周辺の構造とのバランスにも考慮が必要です。たとえば「小鼻が気になる」からといって単に鼻翼縮小術をすれば良いということにはなりません。鼻翼縮小をしたところで鼻尖や鼻背とのバランスがどうか,ということを考えなければならないのです。
また,アジア人は鼻の皮膚が厚く硬く,特に鼻尖形成術の効果が出にくいことが多いです。手術計画のみならず,手術で満足のいく結果を出すことにも難しさがあるのが鼻の手術です。
鼻の構造
外鼻は鼻根,鼻背,鼻尖,鼻翼からなります。それぞれの要素についてどの様な手術があるか,解説します。
鼻根〜鼻背
日本人では鼻根から鼻背に高さがないことが多いです。ここに高さを出すと鼻筋が通って見えます(隆鼻術)。一方で鼻根部に高さがないことは幼さの表現にもなり得ますので,「何でもかんでも高くすればキレイ」というわけではありません。また,鼻筋が通ると錯視により目と目の距離が短く感じることがありますので,目とのバランスにも注意を払う必要があるでしょう。
鼻尖
鼻尖とは字の如く鼻先の部分です。軟骨で構成されていて,この軟骨を操作することで鼻尖の形を整えるのが鼻尖形成術です。
鼻翼
いわゆる小鼻の部分を鼻翼と呼びます。鼻翼を小さくする鼻翼縮小術がポピュラーです。鼻翼を縮小することによって鼻尖の丸みが強調されることがあるため,鼻翼の手術に当たっては鼻尖とのバランスを考慮することが重要です。
隆鼻術
隆鼻術は鼻根から鼻背に高さを出し,鼻筋を通す手術です。人工材料を用いる方法と自家組織を用いる方法に大別できます。また,手術とは言い難いですが,ヒアルロン酸による隆鼻も簡便な方法ですのであわせて紹介します。
人工材料による隆鼻術
隆鼻術に用いられる人工材料としてはシリコンインプラント(プロテーゼ)とゴアテックスがポピュラーです。当院では原則としてI型のシリコンインプラントを用いた隆鼻術を行っています。L型シリコンインプラントは鼻尖までボリュームを出すひとつの方法ではありますが,鼻尖の皮膚の菲薄化やインプラントの偏位による鼻尖挙上などの合併症があり,原則として使用しません。
手術は鼻腔内の切開より鼻骨骨膜下にインプラントを挿入します。
人工材料による隆鼻術の副作用・リスク
感染,インプラントの偏位,インプラントの動揺,長期的なインプラント挿入部位の皮膚の菲薄化などが,人工材料による隆鼻術のリスクとして考えられます。
自家組織による隆鼻術
側頭筋膜や肋軟骨などの自家組織を隆鼻材料とする方法です。感染などのリスクは人工材料による方法と比較して低くなりますが,結果の予測が困難であったり,ドナーとして他部位に侵襲を加える必要があるなどのデメリットもあります。
ヒアルロン酸による隆鼻
ヒアルロン酸を注入して鼻筋を通すことが出来ます。用いるヒアルロン酸としては,クレヴィエル・コントア(Cleviel contour), ピネハ(Fineha Ultra, Fineha Contour), ボラックス(Juvederm Vista Volux XC) など,ある程度硬さのあるものが適しています。鼻へのヒアルロン酸注入で注意すべきは血管塞栓の合併症です。血管塞栓により皮膚壊死や失明などを来すことがあり,細心の注意を払って注入することが必要です。
ヒアルロン酸による隆鼻の副作用・リスク
血管塞栓による皮膚壊死,失明などがヒアルロン酸による隆鼻のリスクとして考えられます。
鼻尖形成術
鼻尖形成術は鼻先の軟骨を操作し,鼻尖の形態を整える手術です。場合により耳介軟骨などを移植することもあります。軟骨操作の方法としては,左右の大鼻翼軟骨を縫合するintradormal sutureが基本ですが,術中判断で左右それぞれの軟骨形態を調整するdomal sutureを追加することもあります。希望によっては軟骨を切離して中間脚,内側脚を縫合するTardy変法を考慮することもあります。切開の方法については,鼻腔内の切開のみから行うclosed approachと,鼻腔内切開に加えて鼻柱に切開をおくopen approachがあります。
Open approachによる鼻尖形成
鼻腔内と鼻柱に切開をおいて手術を行います。鼻柱に傷痕が出来るデメリットがありますが,軟骨の形態を観察しながら操作が出来る利点があります。オステオポールや糸を鼻に挿入されている場合の異物除去や修正にも有用です。
Closed approachによる鼻尖形成
鼻腔内の切開のみから手術を行います。通常見えない部分にしか傷痕が出来ないというメリットがありますが,視野が狭いこと,軟骨を切開創から引き出した状態でしか軟骨の観察や操作が出来ないことがデメリットです。
軟骨移植の必要性
アジア人の鼻尖の皮膚は厚くて硬く,軟骨は薄いことが多いです。そのため軟骨の操作だけでは結果を出すことが難しいことが少なくありません。そういう場合には軟骨移植による鼻尖の増高が考慮されます。用いられる材料としては耳珠軟骨,耳介軟骨,肋軟骨などが挙げられます。当院では肋軟骨の採取は行っておらず,耳にドナーを求めています。
軟骨移植の方法としては,単純に軟骨をブロックとして移植するonlay graftや,支柱を作るcolumella strut法,その他どの様な軟骨形態を作りたいかによりbatten graftやshield graftなど様々な方法があります。
鼻尖形成術の副作用・リスク
感染,希望する形態にならない,Polly beak変形,鼻柱の傷痕が目立つ,軟骨採取に伴う耳の変形などがリスクとして考えられます。
鼻翼形成術
鼻翼形成術は殆どの場合に於いて小鼻縮小術と同義です。この手術に当たって重要なことは,鼻翼の自然な膨らみを残すことと鼻孔底隆起 nostril sil を自然に保つということです。クリニックによっては外側法や内側法などの名称を付けて術式を区分していることもある様ですが,それはあまり意味がなく,前述した2つのことを意識しつつ患者さんの希望に近づくためにどの様な方法を取るのが良いかを考えるのが重要と,私は考えています。
手技としては,鼻翼を楔形にブロックで切り取る方法,鼻翼を皮弁として移動させる方法,鼻翼幅を縮小するalar base flap法などがあります。
鼻翼形成術の副作用・リスク
傷痕が目立つことなどが鼻翼形成術のリスクとして考えられます。
その他の鼻の手術
代表的な鼻の手術としていくつかを挙げて解説しましたが,整鼻術にはほかにも鼻骨骨切りや鼻中隔延長など様々な手術があります。重要なことは全体のバランスを考えて,様々な手術を単独で又は組み合わせて,計画を立てるということです。